九歯大同窓会会報表紙

Q&A

どうして歯並びが悪い人がいるのですか?

生まれつきの影響が大きいと思います。

不正咬合の原因は大きく分けて2つのことが考えられます。一つは持って生まれたものによる影響です。口唇裂口蓋裂の方のように、上あごの骨が癒合不全の状態で生まれて来る方や、生まれつき永久歯の本数が少ない人などがこれにあたります。もう一つは生まれてからの影響です。例えば、一番後方の乳歯が虫歯になって、早いうちに抜歯されてしまうと、6歳臼歯が本来の位置より前方に生えて来て、後から生えて来る永久歯の隙間を奪ってしまい、歯列がガタガタになってしまうことがあります。また指しゃぶりなども、歯列に悪影響を与える事が分かっています。
ただし、生まれる前の要因と生まれた後の要因がどれくらいの割合で、どのように関わっているかは、まだはっきりと分かっていません。たとえば、上のあごに対して下のあごが前方に位置する人は、受け口(下突咬合、反対咬合)になりやすいのですが、この骨格的な特徴は、その人の顔立ちに由来します。この顔立ちは持って生まれたものの影響が強く、幼少時から治療をしても、顎の成長に干渉できないことが多いのです。実際にアメリカの矯正の教科書には原因が分かっている不正咬合は全体の5%に過ぎないと書かれています。
また、あごが小さく、歯が大きい人はガタガタの歯並びになります。このあごの大きさについて、「最近の子どもは柔らかいものばかり食べて、しっかりと噛まないからあごが小さくなり、歯並びがガタガタになる」というお話を聞いた事がありませんか?この樣な意見の背景には、あごの大きさは後天的に決まるという考えがあるのですが、実はこの意見に絶対的な根拠はありません。むしろ最近の子どものあごは大きくなっているという報告の方が多いくらいです。またどれだけの硬い食材をどれくらいの回数噛めば、あごのどの部分が発達して、がたがたが解消するというような調査報告もありません。現状では客観的に見て、あごの大きさは、身長と同じように、生まれる前の要因の影響が大きい様に思われます。
したがって、私は不正咬合の原因に関しては、親から引き継いだ出生前の要因が、出生後の様々な要因の影響を受けて修正される可能性があるものの、そこには基本的な型が存在し、一定の方向に進む傾向を有すると考えています。
そのために、当院では、検査においてその人の傾向を把握したうえで、できること、できないことをきちんと整理して治療を行います。

早く始めれば始めるほどいいの?

早ければ、早い方が良いということではありません。

むし歯のように原因がはっきりとしている疾患は、歯を磨くという予防治療が非常に有効です。そのため近年ではむし歯のお子さんの数はどんどん減っています。それに対して、歯並びやかみ合せの不正は遺伝的、先天的に生じる割合が非常に高いことから、予防が困難です。 また、乳歯から永久歯へと、歯もどんどん生え変わって行くことから、早く始めただけでは、対応することが出来ずに、治療が長期化する場合もあります。
そこで、当院では、十分な検査と適切な診断をふまえて、早期治療の有効性が高く、永久歯列での治療が不要になる場合や、治療を行わないと歯やその周囲の組織に悪い影響を与える場合、心理的に改善が必要な場合にのみ、比較的短期間(1年以内)治療を行うこともあります。その後の治療が必ず不要になるわけではありません。 当院の矯正治療の目標の一つは、永久歯列において、きちんとした健康的な噛み合わせときれいな歯並びを創ることです。したがって、早ければ早い方がいいということはなく。永久歯列完成(目安として12歳から13歳程度)後に治療を行うことで問題はありません。

何歳まで矯正はできるのでしょうか?年をとってからの矯正治療は難しいのではないでしょうか?

歯がある限りは基本的に大丈夫です!

動かす歯とその土台である歯の周囲の骨が健全であれば、いくつになっても歯は動かせます。したがって70歳代で矯正治療を行っている方もおられます。ただし、お子さんのお口の中にくらべて、大人の方は治療が施されている歯が多かったり、既に永久歯が無くなっていたりする可能性が高いことから、矯正治療の目標設定に影響を及ぼす事があります。

どうして見えない装置や取り外しのできる装置を使用しないのですか?

スタンダードエッジワイズ装置が最も質の高い治療を提供できるからです。

歯科の世界も日進月歩で、様々な矯正装置が開発されています。しかしながら、その変化は、針金を曲げなくて済む、装置を患者さんに渡すだけで済むというように、治療する歯科医師にとって省力化する方向に向かい、治療の質の向上には結び付いていません。確かにスタンダードエッジワイズ装置は昔からある目立つ装置です。しかしその装置を使った治療は、歯科矯正医が一人一人異なる口の中の情報を詳細に読み取り、ワイヤーを個々の歯や歯列に合わせて三次元的に曲げていくことができるために、正確な歯の移動が可能になる「オーダーメイド」の矯正治療です。矯正治療は人生において、何回も行うものではありません。最新の装置が必ずしも最良の装置ではなく、確実で質の高い治療のためにはスタンダードエッジワイズ装置による治療が最適であることを、ご理解いただきたいと思います。

治療期間はどのくらいかかるのでしょうか?

ケースバイケースですが、治療前にきちんとご説明いたします。

歯並びや嚙み合わせの状態はおひとりおひとりで異なることから、治療期間については、初診時の検査終了後に、説明いたしますが、あくまで、平均的な期間を参考までに記します。また、装置を装着した後は3から4週に1度の通院で、毎回の診察はそのときの処置内容に応じて15分から90分位かかります。

矯正治療に必要な期間

1)子どものころ(乳歯と永久歯が混在する頃)の矯正治療

1年以内

2)永久歯列になってからの矯正治療

非抜歯治療(歯を抜かない治療):1年から1年半程度

抜歯治療(上下左右小臼歯を4本抜歯して行う治療):2年から2年半程度

また、動かす治療(矯正治療)が終了した後に、動かした歯を安定させるための動かさない治療(保定治療)が必要です。保定装置には固定式のものと、可撤式(かてつしき/取り外し式)のものがありますが、これも矯正治療の大切なプロセスとなります。初診時の状態によっては、出来る限り長期の保定治療をお勧めする事もあります。

保定治療に必要な期間

1)子どものころ(乳歯と永久歯が混在する頃)の保定治療

場合によっては永久歯列完成迄の期間

2)永久歯列になってからの保定治療

非抜歯治療(歯を抜かない治療)

抜歯治療(上下左右小臼歯を4本抜歯して行う治療):治療と同じ期間、あるいはそれ以上の期間。

矯正治療中に痛みがありますか?

はい、全く無痛ということはありませんが、徐々に慣れていきます。

矯正治療の痛みは、歯の移動による炎症反応によるものと、矯正装置が当たって口内炎が生じるなどの外傷性の痛みによるものに分けられます。
歯を動かす力は大変弱い力ですが、歯の移動による炎症反応は避けられず、噛んだ時に痛みを生じます。その痛みには個人差があり、初めて装置をつけたときに3~4日歯が浮いたような痛みがありますが、1週間程度で慣れます。その後、ワイヤーを調整するたびに同様の痛みがありますが、徐々に慣れていきますので、ご安心ください。外傷性の痛みは、専用ワックスや装置の調整で対応いたします。

矯正治療中はむし歯になりやすいですか?

きちんと歯磨き指導いたしますので大丈夫です。

矯正装置がお口の中に入っているので、汚れはつきやすくなります。けれども、正しい方法でていねいに歯みがきをすることでむし歯の心配はなくなります。
むし歯の予防は、お口の中を清潔に保つことが一番です。食事のあとは必ず歯磨きをするように習慣づけてください。お出かけの際にも歯ブラシを携帯するようにしましょう。矯正治療を始めたおかげでこまめに歯磨きをする習慣が身につき、治療前よりむし歯になりにくくなったという患者さんもいらっしゃいます。
また、むし歯の予防には、フッ素(フッ化物)が効果的と言われています。フッ素入の歯磨き粉を使って歯磨きをするとより効果的です。歯磨きの方法やむし歯の効果的な予防については、治療開始前にご指導いたしますので、ご協力をお願いします。

治療中、普段の生活で制限されることはありますか?

食べ物の種類に気をつけてください!

スタンダードエッジワイズ装置をつけた状態では、装置にくっつきやすいチューインガム、キャラメル、などの食事は控えた方がよいでしょう。また針金を装着するブラケットは、基本的に専用の接着剤で歯に貼り付けていますが、ある程度以上の強い力が加わると、外れてしまいます。他の歯科治療でお口の中に入れる、つめもの(インレー)やかぶせもの(クラウン)と違って、矯正装置は治療の終わりに、外さないといけないことから、あまり強力な接着剤は使用できません。そのために、硬い物を食べた場合には、装置が外れてしまったり、破損することがあるので、注意が必要です。
その他、格闘技など接触系のスポーツを行う場合や、吹奏楽器の種類によっては治療に多少の影響を及ぼすこともあります。詳しくは治療の際にご相談ください。